研究活動のご紹介
ヒトおよび動物の脳の仕組みや、脳を含む神経系に起こる病気の診断・治療の研究に取り組んでいます。また、脳を調べるためのツールである機器開発にも力を入れています。以下のような手法を、時には組み合わせて「脳が脳を理解する」ことを目指しています。
脳機能イメージング分野
- メンバー:大石直也、浦山慎一、尾上浩隆、赤坂太
超高磁場MRI(磁気共鳴画像法、Siemens MAGNETOM 7T)
当センターでは2015年に超高磁場7テスラMRI(Siemens MAGNETOM 7T)を導入し、その高い信号強度やコントラストを活用して、高解像度かつ高精度な脳構造・機能画像の計測を行っています。




- 構造画像を使った研究
- 大脳皮質の容積、皮質厚
- 拡散テンソル画像法による白質繊維束の観察
- 高空間分解能の脳血管撮影
- 定量的磁化率画像(QSM)
- 機能画像(機能的MRI, fMRI)
- 課題時の脳機能マッピング
- 安静時fMRIおよび機能的結合
- MRスペクトロスコピー(MRS)
- 撮像方法の研究
- 高速撮像法
ヒトでは健常者のみならず、神経疾患や精神疾患における研究も進めています。また、サルや各種脳標本の研究も実施しています。
機械学習・深層学習の応用研究(大石)
MRIに機械学習や深層学習を活用した様々な研究を進めています。画像-画像変換や高精度ノイズ除去、微小脳構造の正確な自動同定技術など画像解析上重要な技術開発のみならず、多くの先生方と共同で神経疾患や精神疾患における病態解明、治療介入における予測技術の開発など臨床応用を視野に入れた研究も進めています。


7T-MRI用RFコイルの開発(浦山)

超高時間的解像度3Dシネ撮像による脳動脈瘤の拍動の描出(赤坂)
脳動脈瘤は破裂すると脳出血を起こし、30-50%が死亡、生存者の約30%に後遺障害が残るとされており、患者の予後は破裂の有無に大きく依存します。近年、脳動脈瘤の局所的な拍動が破裂のリスクファクターの一つであることがわかってきました。本研究では高い信号対ノイズ比の7T MRIを用い、黄金比のラジアルスキャンと圧縮センシングを組み合わせたGRASPと呼ばれる技術を応用し、連続収集されたMRIデータから心拍動に伴う脳動脈の微細な動きを3Dで超高速(最大80フレーム/秒)で描出する研究を行っています。我々はこの撮像法をGRASP-MRAと名付け、新たな非侵襲性の脳動脈瘤の評価法として確立することを目指しています。
左:GRASP-MRA(65フレーム/秒)で右内頸動脈瘤(約8mm大)を含む脳動脈を撮像 右:脳動脈瘤の壁運動の程度を定量しカラーマップにしたもの
サルMRIの研究(尾上)

霊長類において特に発達している高次脳機能を支える構造と機能の理解は、ヒトの知性の起源を知るという観点からも、難治性とされるヒトの精神神経疾患の病態の理解と治療法の開発という観点からも重要である。マーモセットは小型で溝のない滑脳構造を有していることから、マカクザルでは困難であった広範な脳領域からの同時記録や皮質ニューロンの集団活動のCa2+イメージング、ウイルスベクターによる回路操作がより容易であり、霊長類固有の高次認知機能の回路基盤の解明という脳科学上の重要な課題の達成が期待される。近年、非ヒト霊長類を用いた実験で、光遺伝学や化学遺伝学による回路選択的操作を行う研究が急速に進みつつある。これらの研究をより精密に進めるためには、正確な脳の構造、神経核の位置、頭蓋骨との位置関係を知り、目的の部位に正確にアプローチすることが必要である。我々は、高解像度のCT画像と7T-MRIを正確にFusionする技術を確立し、正確に目的の神経核にウイルスベクターや薬物を注入する技術を確立した。
ヒトにおける高次脳機能、特に高次認知機能は霊長類で発達したシステムであり、その機能解明には、ヒトの近縁種であるマカクザルを用いた脳機能の解析が重要であり、脳機能の測定法を発展させることが重要である。我々は、3Dプリンター技術により、個々の個体の頭蓋骨のCT画像に基づいた、頭蓋骨密着型RFコイル(Skull Fit RF Coil, SFiC)の開発に成功した。SFiCを用いることにより、従来の円筒型RFコイルに比べ、非常にS/N比の高い安息時機能的MRI(resting state functional MRI)やMagnetic resonance spectroscopy(MRS)の測定を行うことが可能である。
2)MRI compatible ECoGの開発
硬膜外または硬膜下皮質電極(ECoG)は、高い時空間分解能で皮質活動の機能マップを得ることが可能です。脳疾患の脳画像診断には通常MRIが使われますが、ECoGの埋め込みは、アーチファクトや金属電極周囲の組織加熱の有害なリスクがあります。そのため、材料工学のエンジニアと協力し、カーボン電極を用いた適合性の高いECoGを開発しています。
臨床脳生理学分野
- メンバー:松元まどか、青木隆太、松橋眞生
脳磁図(MEG)
当センターでは1994年に122チャンネル前頭型MEG(Neuromag 122)を導入し、2004年には306チャンネルの後継機(Vectorview)に更新、 そして2021年にはMEGを病院の中央診療棟に移設し、MEGを用いた臨床研究を推進しています。てんかんをはじめとする様々な中枢神経疾患、精神疾患を対象として、より精度の高い診断法の開発や実証を行っています。さらに、健常な方における、意思決定、言語、記憶などの脳機能に関わる神経基盤研究も行い、基礎的な研究にも注力しています。

神経ダイナミクスによるメンタルヘルス研究(松元、青木)
脳磁図(magnetoencephalography MEG)は、脳の神経活動に伴って発生する磁場を頭皮上から非侵襲に計測する手法です。前頭連合野を中心としたネットワークによる脳内自己表象がメンタルヘルスに関与することが知られていますが、前頭連合野を含む神経ネットワークの活動の動的な振る舞い(神経ダイナミクス)により「自己」がどのように表象されるのか、また、「自己」が揺らいだ時に、どのようなダイナミクス異常が観察されるのかについては、十分に明らかにされていません。デコーディングや神経ネットワークの状態推定などの最先端の解析技術を用いて、脳機能計測によるメンタルヘルス研究に取り組んでいます。


MEG によるてんかんの診断と脳機能マッピングの研究(松橋)
てんかんをはじめとする様々な中枢神経疾患の臨床診断に用いながらより精度の高い診断法の開発や実証を行っています。 リンク:てんかん・運動異常生理学講座のMEGのページ


神経機能回復・再生医学研究
- メンバー:小金丸聡子、島淳、田中和樹、山田真子
非侵襲的なヒト脳への刺激により脳可塑性を誘導し、リハビリテーション課題と併用することで効率的な機能回復を目指す最新の研究をしています。脳刺激には経頭蓋磁気刺激(TMS)、経頭蓋直流電流刺激(tDCS)、経頭蓋交流電流刺激(tACS)、経頭蓋静磁場刺激(tSMS)を用います。
またブレインマシーンインターフェイス(BMI)、ロボットリハビリテーションの研究も行い、システムの開発検証も進めています。
新たな神経モジュレーション技術と障害治療法の開発と合わせて、脳磁図(MEG)、脳波、MRI計測による神経機能回復基盤の解明も行います。
対象は神経疾患患者(脳卒中、パーキンソン病、認知症など)、健常者で、主にヒトを対象としていますが、動物実験研究ともコラボレーションしていきます。

